生まれついての大嘘つき



「夢野先生、それどうしたんですかっ!?」

 いつも通り夢野先生のお宅に訪問した私。玄関先に立っていたのは雇い主である夢野先生……なんだけど、そのクリーム色の髪からぴょこっと覗いているものに、私は目を離せないでいた。

「はて。“それ”とは?」
「そのたぬきみたいな耳とたぬきみたいなしっぽのことですよう! シブヤハロウィンはもうとっくに終わってますけど……あ、そっか! 先生、その日は締切に追われててそれどころじゃなかったから満を持して今日こそハロウィンを満喫――」
「違いますよ。それと、人の苦々しい記憶を掘り起こさないでくれますか」

 すとん、と先生の軽いチョップが頭の上に落ちてきた。全然痛くない……と思っていたらどこかのツボに当たったのか、後からじんじんと痛み始めるタイプのチョップだった。さすが先生、狙うところが的確だ。うぅ、地味に痛い。
 私がチョップされたところをさすっていると、「というかあなた……知らなかったんですか?」と真面目そうな顔で先生が言った。「な、なにがですか?」と不安な気持ちで尋ねると、先生がちょいちょいと手招きをする。私は靴を脱いで玄関に上がり、片耳をそっと貸した。

「小生は、ごにょごにょり……ごにょごにょり……」
「えぇッ!? 夢野先生がたぬきの一族で超有名なポンポコ一族の末裔っ!?」

 しッ、と人差し指を立てて先生は“静かに”のジェスチャーをしたので、私は慌てて両手で口を覆った。

「これは他言してはいけませんよ。この秘密は限られた人にしか教えていないんですから」
「わ、わかりました……っ」
「よろしい。普段は妖力で人の姿に化けていますが、時々力が足りなくてこのような姿になってしまうのです」

 し、知らなかったぁ……! たぬきの一族なんてまるで本の中から出てきそうな言葉だけど、先生がそうだと言うならきっとそうなんだろう。
 いつもなら、先生お得意の嘘ですよね~、と言うところだけど、先生の頭から生えているたぬきの耳(これからはたぬ耳と呼ぶことにする)とおしりに付いているたぬきのしっぽ(こっちはたぬしっぽと呼ぶことにする)は本物のようなので、今回ばかりは嘘なんかじゃないと分かった。それに、ポンポコ一族ってなんかちょっと可愛いし!

「とまぁ、小生はしばらくこのような姿ですが、あなたはいつも通り仕事に励むように」
「はい! もちろんです!」

 私は元気よく返事をする。そう、先生がどんな姿でも私がやることはなにも変わらない。炊事洗濯掃除などなど……今日もやることは山積みなのだ。
 今日も一日がんばるぞう! 気合いを入れて、私がにこにこしながら靴を脱いでいると先生からの視線を感じた。ん? と見上げてみれば、先生はどこか呆れたような眼差しを私に向けながら、はぁ、と小さくため息をついた。

「……ここまで綺麗に騙される人間も中々に希少ですね」
「え? だまされる……? 先生、私のことだましてるんですか……?」
「騙してないポン! 小生は正真正銘、たぬきの一族で超有名なポンポコ一族の末裔なんだポン!」
「えぇ~っ!? 語尾すごくかわいい~っ!」







 朝ご飯はもう一昨日の作り置きを食べたみたいだから、今日は洗濯機を回すところから始まった。そのあいだに、私は掃除機で長い廊下から使われていない小部屋までブオオォォ~、と丁寧にホコリを吸っていく。

「(先生、今までこんなことなかったのになあ)」

 掃除機をかけながら、私は先生のたぬき化について考えていた。先生の元でかれこれ数年お世話になってるけど、あんな超現象が起きたことは一度もなかった。
 どうしてこんなことになったんだろう。妖力? が足りないって言ってたよね。妖力ってなんだろ。人間でいうカロリーみたいな? 先生、もともと少食だからなあ~。本人はお腹いっぱいのつもりでも、先生の体はもっと栄養を求めているのかも――って、あれ?

「(先生の妖力が足りないの、私のせいではっ!?)」

 だって先生のご飯を作ってるのは私だし!? 最近はちゃんと栄養について勉強してるのに! ボリューム満点かつ栄養満点なものを作ってるつもりだったのに! どうしよう!? もしかしなくても私って家政婦失格!? 最悪解雇されちゃう!?
 こうしてはいられない。掃除機をかけ終えた私は先生の部屋に突撃訪問した。

「先生っ! 夢野先生っ!」
「なんですか騒がしい」

 襖を開けると、机に向かっていた先生が迷惑そうな顔で振り返る。た、たしかによくよく見るといつもよりも体が痩せていらっしゃるような……? これも妖力不足のせい? 

「先生、お腹がすいたら軽食作ってじゃんじゃん持ってくるので、遠慮なく言ってくださいね!」
「お腹が空いたらって……朝食はさっき食べたと言ったでしょう。聞いていなかったんですか?」
「聞きましたけど、先生のお腹の虫が我慢できなかったときのために!」
「小生のお腹に棲んでいる虫は少食なのでお気になさらず」

 むむむ。先生は頑なだ。それでもサンドイッチかなにか作ってもってきますよ、と言おうとすると、廊下にある固定電話がジリリリッ、と鳴り始めた。
 いけない、早く出ないと! 私の中で優先順位が先生から電話に切り替わる。「ちょっと出てきます!」と言って先生の部屋を出て、音が鳴り止まないうちに受話器をとった。

「はい! 夢野です!」
《おっ、その声はか!》
「その声は帝統君!」

 「ひさしぶり~!」「おー!」と久々に聞いた帝統君の声に笑みが零れる。乱数君もそうなんだけど、最近なかなか二人と会えていないのだ。
 乱数君が言うには、「オネーサンがゲンタローの家にいないときはちょちょく行ってるよ~?」とのこと。タイミングが合わないのかな? と一瞬思ったけど、きっと先生はお友達との団らんを私に邪魔されるのが嫌なんだろうなあ、と思い直した。それだけ大事な二人だということは、普段の先生の態度から伝わってくるから。私がいる時は二人を呼ばないようにしてるんだろう。

「あっ。それで帝統君、何か用事だった? 先生と直接話すなら呼んでこようか?」
《あーいや、大したことじゃねえんだが……幻太郎、調子どうかと思ってよー》
「調子?」
《幻太郎から聞いてねーのか? つか、も家に来てるなら見ただろ? 幻太郎の頭とケツから生えてるやつ》

 帝統君の言葉にはっとする。そっか、帝統君は先生の事情知ってるんだ……! 一人で納得した私は、「うんうん! もちろん見たよ!」と声を張った。

《昨日三人でニセ乱数をボコしてよ。そいつが持ってたマイクを面白半分で起動させたらこんなんになっちまって。マジではた迷惑なマイクだぜ~》
「へ? ニセ乱数君?」
《俺は今とりあえず乱数のとこにいるんだけどよ――あ、本物の方な。正直、猫の耳が生えてようが賭け事にはカンケーねえし、別に気にしねえんだけどよ。幻太郎に、『そんな姿で外を歩くものじゃありません』とか言われて止められちまったんだよな》
「ねこ……?」
《おう! ちなみに乱数はうさぎな! こうなったら人間見世物にでもなって三人で荒稼ぎしようぜっていう話もしてたんだが……あ、ちなみには五分につき千円って高えって思うか?》
「も、もしかして……帝統君と乱数君もポンポコ一族てきなあれなの……?」
《は? なんて? ぽんぽこ?》

 大きな影と一緒に人の気配が後ろにやって来て、振り返る前に私の手の中にあった受話器は電話機の上に置かれていた。
 かしゃん、と静かな音とともに今度こそ後ろを向く。そこにいたのはやっぱり夢野先生で、ご機嫌がいいのか悪いのか分からない顔をしていた。

「帝統はなんと?」
「えっ。先生、帝統君ってよく分かりましたね……?」
「『その声は帝統君!』というあなたの声が馬鹿みたいに大きかったんですよ。それで、帝統はなんと?」
「せ、先生の調子はどうかって……」
「それから?」

 真顔なのに圧が強いです先生。なんだか尋問を受けてるみたいだ。電話、早くかわればよかったかな~……と反省しながら、帝統君と話した内容をざっくりと伝える。
 正直、私は帝統君の話を半分以上理解できてなかったけど、夢野先生は納得した顔で、「……まぁ、人間見世物の件はさておき」と前置きをして話し始めた。

「すでに察しがついていると思いますが、二人も小生と同じ……帝統はニャンニャン一族、乱数はピョンピョン一族の末裔なのです」
「えぇ~っ!?」

 それじゃあ今の二人にも猫耳やうさ耳が……と思っていると、「今日の電話はすべて小生がとるので、あなたは出なくていいです」と言い残した先生は、ささーっと自室に戻っていった。あ、人間見世物の件はそのままスルーしちゃうんだ……。

「(あっ。そろそろ洗濯終わるかも!)」

 ニャンニャン一族もピョンピョン一族もすっごく気になるけど……仕事はきちんとやらなきゃ。私は早歩きで脱衣所に向かい、脱水が終わるまであと数分の洗濯機の前でスタンバイする。ふふふ、今日は天気がいいからこのあとに布団も座布団も干しちゃうもんね!







「あなたの目には大家族でも見えているんですか?」

 それから数時間が経った昼下がりのこと。
 自室から出てこられた先生に冷ややかな目に見下ろされて、「あ、あはは~……」と私は乾いた感じで笑った。……ご、ごまかせないって分かってるけども!
 先生がそんな眼差しで私を見る理由は分かってる。今日のお昼ごはんとして食卓に並んでいるのは、まいたけの炊き込みご飯、サンマの塩焼き、れんこんのきんぴら、里芋の煮っころがし、ほうれん草のおひたしなどなど……これぞ秋の味覚! なメニューの数々について物申したいのだ。まさかこれが一食二人分の献立なんて“あたおか”なんですか? って言いたいのが伝わってくる。私も改めて見るとちょっと多かったかも……と思い始めてきた。それでも言い訳をせずにはいられない。

「ほ、ほらっ! 食欲の秋って言いますし! 今日もスーパーに美味しいものがたくさん並んでましたし! 選びきれなかったと言いますか!」
「だからといって一食にすべて詰め込むことはないでしょう。これらの食費はどこから出ていると思っているんですか」
「すみません……」

 負けた。先生の妖力不足は私のせいだと思って、つい……、と言うと恩着せがましいと言われるかもしれないので、ここまでくるともう黙るしかなかった。
 私が食卓の前で正座をして肩をすくめていると、またしても先生の口からため息が漏れた。今日で二回目だ。

「もういいです。どうせ全部食べられないでしょうから、余った分は夕食と明日の朝食に回しましょう。今日はもう何も作らなくていいですからね」
「えっ。夕食はお鍋にしようかと――」
「作らなくていいですからね?」
「はい! 今日はもう作りませんっ!」

 ビームでも打てるんじゃないかってくらい鋭い目でそう言われたので、私はすぐに謝った。とりあえず温かいお茶を注いで場の空気を濁す作戦に出たけど効果はあんまり期待できない。ほ、ほらぁ~……たぬ耳もぴくぴくしていらっしゃる~……。怒ってらっしゃる? まだ怒ってらっしゃる?
 私が先生の様子を窺っているあいだに先生が「いただきます」と両手を合わせたので、私も慌ててそれにならった。そのまま二人で黙々と多すぎる昼食を食べていると、汁物に手をつけた先生が顔を上げた。

「これは?」
「それはたぬき汁です!」
「たぬき汁……あぁ、たしか精進料理の一つでしたか」
「へ? ショージン料理……?」
「知らずに作っていたんですかあなた。というか、よりにもよってたぬき汁とは……狙ってます?」
「ね、狙ってないですよ! 昨日の夜から明日のお昼は具だくさんのみそ汁にしようと思ってたんです!」

 「あとこんにゃくも安かったので!」と付け足すと、しばらく疑いの目で見られたけど、それ以上は何も言われずに先生は汁物をすすった。ほっ、よかった。“ショージン料理”の意味はあとで調べてみよう。

「(ん~。個別に盛ったのは食べてくれてるけど、大皿はそんなに減ってないなぁ)」

 いつも通りといえばそうなんだけど。(私が適度な量を作ったり盛ったりすれば)先生は完食してくれるし、シェア用で大皿に盛っているものは、翌朝に持ち越せるように余る前提で作っている。それでもいつもよりも量の減りが遅いような気がする。
 先生は一口も小さいし、食べるスピードもゆっくりだ。もともと少食だけど、妖力が足りないと言われてしまうと、食べてる量が少ないんじゃ……? とか思ってしまう。うーん、やっぱり心配だ。

「なんですか。人の顔をじろじろと」
「あっ、あーっ、えーっと、その……せ、先生って午後からも執筆されるんですかっ?」
「いえ。もう原稿は出来上がりましたので、あとは担当に送るだけです」
「それじゃあ、これ食べたら書留で出してきますね! あとはなにかやることとかありますか?」
「そうですねぇ……」

 ふう、なんとかごまかせた。私が胸を撫で下ろしていると、先生は私の顔をじーっと見ていた。な、なんだろう。先生って私と話すとき、そんなに目合わせてくれてましたっけ……? 今はたぬきの血が強いから? いや、あんまり関係ないかな。
 ……あっ。そうだ。

「せんせ、せんせっ」
「はい?」
「もしよかったらなんですけど……郵便局から帰ってきたら、しっぽのブラッシングしましょうか?」

 先生の後ろ姿を見たときに思ったのだ。たぬしっぽ、かなりぱさぱさしてるな~、と。毛の流れもあっちこっちにいってる感じだったし、せっかくだから綺麗にしておいた方が先生も気持ちがいいのでは? という私なりの気遣いだった。余計なお世話ともいうかもしれないけど……。
 私の言葉を受けて、ふむ……としばらく考えこむ先生。そして、顔を上げてから一言。

「セクハラですか?」
「って言われると思ったから、“もしよかったら”って言ったんですよう! 嫌だったら全然大丈夫ですし!」
「嫌とは言っていません」
「えっ! それじゃあ……!」
「いいとも言っていません」

 難しい! 先生難しいです! 期待値が上げたり下がったりを繰り返して、ひえぇ、となっていると、「冗談ですよ」と先生がため息まじりに言った。

「まぁ……いいでしょう。なにかの記念ですし」
「やったあ~っ!」
「その前に聞きたいことが一つ」
「はいっ」
「あなた、これが触りたいだけでは?」

 先生が背中の裏に隠れていたたぬしっぽを両手で持って、私にずいっと見せる。ぎくりと肩を震わせた私。「あ、あはは~……」ともう一度笑ってごまかそうとしたけど、それが答えだと言わんばかりに冷めた目で見られてしまった。だ、だって先生のたぬしっぽ、見てるだけでもふもふのふわふわなんですもん!







 郵便局にて先生の原稿を郵便書留で送ったあと、ホームセンターに寄って大きなブラシを買ってきた(ちゃんと静電気がこないタイプのものを選んだよ!)。

「夢野先生、帰りました~っ」

 たったったー、と早歩きで廊下を渡る。先生の部屋に入る前に声をかけたけど、ここでも返事はなかった。あれ? 靴はあったから外には出てないと思うけど……。
 なんとなく部屋の中にはいる気がして、「失礼しますよー……?」と一言断って襖を開けた。やっぱり先生は部屋の中にいた……けど、なぜかうつ伏せで寝ていたので一瞬びっくりした。

「せ、せんせー……?」

 呼びかけながら先生に近づく。けど、なかなか起き上がらない。試しに背中をつんつん、と人差し指でつついてみる。それでもぴくりとも動かない。
 ……あれ、ほんとに動いていらっしゃらない? 息を吸ったり吐いたりしたら、少しは背中が動くはずなのにそれもない。そういえば、まるで急に倒れたみたいに手足が放りだされていて……。え、これってまさか……ッ!?

「もしかして死――っ!?」
「嘘ですよ」
「わあ゙あぁ゙ぁッ!?」

 突然むくっと起き上がった先生に私は悲鳴を上げる。すう、はあ、と大きな深呼吸を始めた先生は、「は~。空気が美味しいポン」と裏声で言った。わ、わざと息止めてたんですか!?

「これが本物の狸寝入りです」
「しっ、死んだふりが上手すぎです先生っ! 心臓に悪いのでもうやめていただけると……っ!」
「えぇ。もうしませんよ。今のあなたの顔を見て満足したので」

 そう言った先生は本当にすっきりとした顔をしていらっしゃる。たぬきの仕事って死ぬふりなんですか? な、なるほど、これがポンポコ一族の力……ではなく!
 「ぜったいにぜったいにやめてくださいねっ」と先生に釘を刺して、わたしは袋から買ったばかりのブラシを取り出した。こうなったらブラッシングという名目でいっぱいたぬしっぽに触って……じゃなくて、めちゃくちゃ綺麗にするんだから! さぁ、いざ!

「本当にするんですか」
「ほんとにしますよ! やさしーくするので安心してください! あ、もし痛かったりしたら言ってくださいね~」
「痛いです」
「まだなにもしてないです!」

 この期に及んで少し不満げな先生だったけど、ぽむ、と私の方へ差し出されたたぬしっぽ。私はそれを両手で持って膝の上に乗せると、付け根から先っぽに向かってブラシを通していった。
 わあ~っ。やっぱりもふもふのふわふわだあ~っ。たぬしっぽ自体は痩せているけど、毛の量が多くてぶわっと膨らんでいるから見た目は大きく見える。毛が絡まっているところは優しくほぐしながら、皮膚を引っ張らないように気をつけていく。

「ん……っ」
「あ、すみませんっ。痛かったですか?」
「いえ……ただ、付け根のところはあまり触らないようにしてください」
「分かりました!」

 繊細なんだなあ。そりゃあそうだよね。先生にとって、このたぬしっぽは自分の一部なんだから。
 そういえば、ホームセンターの帰りにふと思ったことがあった。たぬきも犬みたいにしっぽで感情表現するのかな、と。調べてみたら、たぬきはしっぽで感情表現どころか、感情自体分かりにくい動物らしい。その中でもたぬきの気持ちがなんとなく分かるサインが一つだけあって――

「(……あ、まただ)」

 先生はブラッシングをしている私の方をじっと見ている。一日のうちに何回も先生に見られるなんて初めてのことだった。やっぱり、この視線の意味と先生がたぬきになってることとは関係があったみたいだ。

「先生、知ってますか? たぬきって関心のあるものをじーっと見るらしいですよ」

 “サイン”の意味を何気なく伝えたその瞬間、たぬしっぽの毛がぶわっと逆立った。そして私の膝の上でぶんッ、と跳ねたかと思えば、たぬしっぽを庇うように両腕で抱えた先生が仇を見るような目で私を睨んでいた。え、こわ……っ!?

「明日の朝……若槻は呪われるポン」
「へ? の、呪いっ?」
「この目を十秒間見た者は問答無用でポンポコの呪いにかかるんだポン。明日の朝にはありとあらゆる厄災が若槻の周りで起こるポン。その名もたぬポンの呪い……」
「まっ……またまた~っ。そんな動画サイトのいたずらコメント欄みたいなこと言わないでくださいよー。……え、嘘ですよね? 嘘なら早く嘘ですよって言ってください! 先生っ!? 夢野せんせーいっ!?」





 ――その日の翌日。
 朝、目覚めてから私はずっとびくびくしながら支度をしていた。ルームメイトの彼女にも「。なにかあったの」と心配されるくらいにびくびくしていた。この際、理由を話して気分だけでもすっきりしたかったけど、ポンポコ一族のことは秘密だから何も言えなかった。
 そして、こういう日に限ってカラスが道のど真ん中にいたり、黒猫を二回も見たりする。これが呪いの前兆……!? とか思ったりもした。とりあえず車の往来や鳥の真下を歩かないように気をつけながら、なんとか先生のお宅に到着した。
 そうしていざ玄関をくぐると、「おはようございます」と涼しい顔をした夢野先生が立っていた。お出迎えされたことにもびっくりしたけど、それ以上に昨日生えていたたぬ耳とたぬしっぽがなくなっていたので私は「えっ!?」と声を上げた。そこで話を聞いてみると――

「はい? 小生がたぬきの一族で超有名なポンポコ一族の末裔? なにを馬鹿なことを言ってるんですかあなた」
「えぇっ!? そ、それじゃあたぬポンの呪いはっ……!?」
「嘘ですよ」
「わ~んッまたうそだった~ッ! でも呪われなくてよかったよおぉ~っ!」

 安心のあまりその場に膝から崩れ落ちると、「お腹が空いたから早く朝食を作るんだポン」と耳元で囁かれた。も、もうたぬきはしばらくこりごりです~っ!