春の謀、あわただしい純情
本日も、笑顔で楽しく元気よく家政婦業に勤しもう――そんな心持ちで幻太郎宅に足を踏み入れたは、玄関に入るなり戦慄した。
「空き巣っ!?」
「違いますよ」
開口一番にそう叫んだと、廊下の角からにゅ、と姿を現した幻太郎。本日も馴染みの深い書生の姿をしている彼だが、その顔はどことなくげんなりとしていた。締切前かなぁ、とは頭の隅でちょこんと思った。
しかし、今回はそれだけではなさそうだ。というのも、いつもは綺麗な玄関が半ば無法地帯となっている。足の踏み場がごく僅かになるくらい段ボールが所狭しと並んでおり、高々と積み上げられたそれは床に深い影を作っていた。
これは一体――が幻太郎を見上げると、彼は深々と溜息をついた。
「夕食を作る前に、それを片して頂けますか。ちょうど空き部屋がありますので、そこに全部運んでください」
「そ、それはお安い御用ですけど……。この荷物、どうしたんですか?」
今までも、夢野幻太郎先生宛のファンレターやプレゼントが、出版社を介して届けられているところは何度も見たことがある。しかし、それにしても今回は数が尋常ではない。幻太郎の表情を見ても、いたずらか何かか、と思っても仕方がないほどに。
「小生がDJを務めたラジオが配信されてからというものの、こういった贈り物が毎日のように届くんですよ」
「乱数からおおよそのことは聞いていましたが……まさかここまでとは」幻太郎は大量の段ボールを見るなり目に影を落とした。なるほど、彼が思い悩んでいる顔をしているのはそのせいか。はふむふむと納得する。
玄関は家の顔――ここに物が溢れていたら家主はもちろん、来訪客にも良い印象を与えないだろう。困っている雇い主をお助けするのが家政婦の役目。よしっ、と気合を入れたは胸の前で両手拳をつくった。
「じゃあ、さっそく運んじゃいますねっ」
「ああ、こればかりは時間をかけて構いませんので。宅配の方も持ってくる時にひと苦労していましたので、運ぶ時は一つずつ――」
は積み上げられた段ボールを上から二つほどひょいっ、と持ち上げる。おっと、と少しよろついたが、体幹をしっかり保つとバランスも安定した。よしよし。それなりに重量はあるものの、これくらいなら一度に運べるだろう。
中には軽いものもあるだろうから、それらは一気に三つくらい持っていって――なるべく往復回数を減らそうと、が頭を巡らせていると、なぜか冷めた眼差しでこちらを見下ろす幻太郎とぱちん、と目が合った。
「……馬鹿力」
「えっ? なんですか?」
「なんでもありません」ふいっ、と顔を背けた幻太郎。はクエスチョンマークを浮かべながらも、こちらです、と空き部屋へと案内してくれる彼の後に続いた。
案内された空き部屋にすべての段ボールを運び終えて、その総数を数えてみる。すると、二十個余りのものがそこにあって、ひえぇっ、とは小さな悲鳴を上げた。
「ひとまず中身を出してくれますか」そう言われながら、は幻太郎に差し出されたハサミを拝借して、ガムテープで止められたそれを次々に開けていく。
たしかに、これを一人で片づけていくのは大変そうだなあ……。がそんなことを思っていると、ふと気づいたことがあった。
「なんだか、恐竜多くないですか?」
は段ボールから出したものを一通り見てみる。恐竜のぬいぐるみ、恐竜の便箋で書かれた手紙、恐竜のイラストが描かれたお菓子など……すべてのものが恐竜関係のものだった。
先生、こんなにも恐竜好きだったんだー。がぼんやり思っていると、こちらを一瞥した幻太郎が呆れたように溜め息をついた。
「念の為に言っておきますが、小生が買い求めたわけではありませんからね」
「えっ。違うんですか」
では、やはり貰い物だろうか。それにしても、この統一感と量は凄まじいものだ。先生、また新しい本を書いたのかな。それも、恐竜に関係のある物語を。幻太郎の元で働き始めてからというものの、は本屋を通りがかったら、店内にある新刊コーナーは欠かさずチェックするようにしていた。活字を読むと催眠術にかかってしまう――幻太郎と出会っていなければ、本屋とは無縁の人生を送っていただろう。話題の本や新刊は、本屋の出入口の真ん前に目立つように置かれていることを最近知ったほどだ。
――ふと、我に返る。すると、幻太郎がじっとりとした目でこちらを見つめていた。え、私また何かしちゃった?
「あなた、昨日のラジオを聴いていなかったんですか。あれだけ、『リアルタイムで聴きますから~っ!』と豪語しておいて」
「わあ~、私の声真似お上手ですね先生――じゃなくてっ。実はその日帰るのが遅くなっちゃって聴けなかったんですよ~っ。今日帰ったらアプリで聴きます!」
某アプリと連携したDRBの代表メンバーのラジオ。今は我らがシブヤの御三方がラジオDJを務めていた。先週の乱数はリアルタイムで聴くことができたが、一番身近な存在である夢野幻太郎先生の回は、あいにく残業が長引いて聴けなかったのだ。
帰ってから聴けばよかったのでは――ごもっともである。も体力には自信があったものの、最近は特に忙しかったからかリビングで倒れるようにして横になった。おまけに、「、風邪ひく」と、先に帰っていたルームメイトの声と毛布の暖かいぬくもりによって、さらなる眠気を誘われてしまったのである。
――閑話休題。もしかして、この恐竜たちはラジオの内容と何か関係しているものだろうか。が幻太郎をちらっと盗み見ると、彼はいつもの三割増の冷たい目線でこちらを見ていた。ひえぇ……っ。おまけに、から声をかけようとしたら、ぷいっ、と顔を背けられてしまう。のメンタルがぐりっと抉れた。
「とにかく、食べ物と雑貨は分けて部屋の隅に置いておいてください」
「ご、ご飯はどうしますかっ?」
「その作業が終わり次第で構いません。延長料金は上乗せしますので」
結局、幻太郎はこちらを一度も見ずに部屋を出ていってしまった。延長料金は上乗せ――つまり、作業が終わるまで帰れませんというやつだ。こちらとしては遅くなっても平気だし、むしろお金がもらえて大変助かるが、心配なのは彼のお財布事情だ。うちの会社、他のところと比べて延長料金高めなんだけどなぁ……。しかし、そんな杞憂も想像していたよりも分厚すぎる封筒を目にする月末で綺麗に払拭されるのだった。
こんな小娘の為すことにあんな大金を払ってくれるなど……。幻太郎の経済力と寛容さに畏敬の念を払いつつ、は有象無象の荷物たちに手を伸ばした。
黙々と作業を始めて、三十分が経過した。
ようやくすべての段ボールを開けて中身を取り出し、空になった箱は平にして紐ですべてまとめ上げた。これからが本番――雑貨と食べ物を分ける作業だ。人様宛の荷物をじろじろ見るべきではないが、どうしても恐竜が視界に映ってしまう。しかも、なぜかすべての恐竜が同じ種類に見えるのは気のせいだろうか。どの子も四足歩行で、背中に棘があり、しっぽの先端が皿のように平たかった。
この恐竜、名前とかあるのかなあ。ティラノサウルスしか分かんないなあ。そんなことを考えながらも、は作業の手を休めない。段ボールの中でも、袋に包まれて中身が分からないものがあれば開封してもよいとのこと。のその言葉通り、綺麗に梱包されたラッピングペーパーを破かないよう、留められたテープを丁寧に剥がしていった。
「わああぁぁ~~っ」
次に出てきた品物を見て、は思わず歓声を上げた。
それは衣服だった。もこっとした青い生地、フードの部分にある角、背中から腰にかけて生えているとげとげは、今まで目にしてきた恐竜を象ったものだった。
これはもしかして、ルームウェアというものでは――はきらきらと目を輝かせた。
「(かわいいぃぃ~~っ)」
思わず抱きしめたくなるもちもちでふわふわな手触りに、はメロメロだった。フードに付いている黒い目もチャーミングで、内なる女子心が擽られる。仕事中であることも忘れて、は心を躍らせた。
先生、これ着るかなあ。着てほしいなあ。なんなら私がいる時にぜひとも着て頂きたい――そんな欲がじわじわと溢れさせていたせいで、遠くから聞こえてくる足音に全く気がつかなかった。
「さて、そろそろ終わりまし――」
不意に、襖がすっ、と開いた。 出てきた幻太郎の姿にがぴしッ、と固まる。そんなことになったのはだけでなく、彼もまた敷居の前で石のように固まっていた。
広げているところ見られてしまい、は慌てて幻太郎と向き合った。
「すっ、すみません先生ッ。先生宛のものを勝手に広げ――ッ」
ふと、は途中で言葉を止めた。というのも、幻太郎の視線は終始が手に持っているルームウェアに注がれていたからだ。興味津々、といった具合に。おそらくは、こちらの謝罪など一切届いていないだろう。ひとまず、あまりお怒りではないことにはほっと一息つく。
すると、幻太郎がこちらに歩み寄ってきた。「なんですかそれは」と彼が言うと、はふわもこのそれを正面に掲げた。
「恐竜のルームウェアです!」
「部屋着にしては随分とけったいなデザインですね」
「最近はこういう動物を象ったものが流行ってるんですよー。あっ、これは恐竜ですけど。ゆるかわってやつですね~」
恐竜の可愛さにテンションが上がったは、もっとよく見てください、と言わんばかりに立ち上がって、ルームウェアをびろん、と広げて見せる。の身長ではルームウェアの足部分が畳についてしまったが、銅部分が見えれば十分だろう。
幻太郎はルームウェアに誘われるようにゆっくりとこちらへ近寄っていく。そして、フードを持ち上げたり、腕を広げたりして念入りに観察を始めた。ふむ、と。そして、なぜか時折こちらをちら、ちら、と見たりして、彼にしてはどこか落ち着きがなかった。
先生、恐竜が好きなのかな。でも、そうじゃないとこんなにも恐竜のプレゼントなんて届かないか。先生は美形だから、こういうルームウェアを着てもきっと似合うんだろうなあ。は想像上で幻太郎にルームウェアをこっそり試着させていると、当の本人の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「……それ、差し上げますよ」
「えッ!?」
「小生が持っていても着る機会はないでしょう。あなたが歓声を上げるほど気に入ったのなら、そのアンキロサウルスも報われます」
は呆気にとられた。たしかに、ちょっと欲しいかも、と思っていなかったことはないが、まさか幻太郎自ら譲ると言ってくれるなんて予想外だ。というか、やっぱりあの声聞こえてたんだ……。ちょっと恥ずかしい……。というか、後半辺りで耳に馴染みのない単語が聞こえたような……? がその意味を問う前に幻太郎の口が再度開いた。
「固まっていないで答えて頂けますか。いるんですか。それともいらないんですか」
「いえっ、その……頂けるならぜひって感じなんですけど……。これ、男性用サイズなんじゃ?」
「部屋着なら多少大きくても問題ないでしょう」
ごもっともである。しかし、本当にいいのだろうか。幻太郎のファンも、幻太郎自身がこれを着る姿を見たくて送ったのではないだろうか。それを、こんな他人同然の自分が貰っていいものなのか。
迷ってはいるが、着てみたいか着てみたくないかと聞かれたら着たいというのが本音。これを着て家で一日過ごしてみたい。いやそれでも……うぅん、とがひとりでに唸っていると、不意に幻太郎がにっこりと笑った。怖い。
「今、ちょうど恐竜関係の物語を執筆途中なのです。作業が終わって夕食を食べ終えたら、資料ついでに着てくれますか」
「ええッ!? 先生の前でですか!?」
「なんですか」
「いえ、ちょっとさすがに恥ずかしいと言いますか……」
がしどろもどろに言うと、幻太郎は「……へぇ」とわざとらしく声を漏らした。
「そうですかそうですかぁ。小生は寛大な心の持ち主なので、雇用主宛の荷物を無断で広げたことについては目を瞑ってあげようかと思いましたが、あなたがそういうつもりなら今から勤め先の会社に報告を――」
「着ますっ! 着させて頂きますッ!」
勢いで言ってしまった。すると、幻太郎は「ほいじゃ、期待して待っているでの~」とおじいちゃん口調で言いながら、部屋を出ていってしまった。やってしまった。言ってしまった。は溢れる絶望を隠せない。幻太郎は見目美しいし、余計ハードルが高くなってしまった。ハードル走は得意だが今回はそういうことではないのだ。
はしおっ、と顔をしぼめる。でも、半分は自業自得だからしかたないかぁ……。自分にそう言い聞かせていると、のほほんとした恐竜のつぶらな瞳と目が合って、ずきゅん、と心臓を撃たれた。うう……っ、それとそれとして本当に可愛いなぁこの子。
荷物を仕分け、ご飯を作り、お腹が脹れたところで、は別室で着替えを始めた。まさか幻太郎宅でゆるかわルームウェアを着る日が来るとは思わなかったは未だ信じられない。夢か幻ではないか。夢野幻太郎なだけに。
冗談はさておき、着心地は最高だった。裏地もふわふわで、背中についたやわらかいとげを撫でるとなんとなく気分が上がる。本当に恐竜になった気分だ。
さすがに男性の自宅で下着姿になるわけにはいかないので、今着ている服の上からルームウェアを被った。それでも、胴回りや腕にはかなりの余裕があって中々良い。
今、自分はどんな格好をしているのだろうか。姿見がないのが辛いところだ。「登場する時はフードも被ること」と幻太郎に追加で言われてしまったので、は渋々フードを被った。今のの頭には、恐竜の目である黒い丸が二つ付いていることだろう。
「せんせ~……。着れましたよ~……」
空き部屋から幻太郎の自室に移動した。閉められた襖の前で声をかけると、「どうぞ」と短い返事が聞こえてくる。は笑われる覚悟をしながら、すぅー……、と静かに襖を開ける。すると、仕事机に向き合っている幻太郎の背中と対面した。
すぐに、くるっ、と体を回転させてこちらを向いた幻太郎。ぱちん、とと目が合って、しばらくの間、お互いに声もなく静止していた。
「……十点」
「ち、ちなみに、何点中か聞いても……?」
「十点中」
「えっ! やった満点っ!」
「まあ嘘ですけど」
「落差がひどいッ」
そんな叫びも虚しく、幻太郎は口元に袖を添えながら、ふいっ、と顔を背けてしまった。は懇願するように彼を見ても、本人はどこ吹く風。笑われるよりもメンタルに刺さるリアクションだ。うぅ、とは小さく唸った。この反応だと、子供向けのヒーローショーに出てくる怪獣くらいにしか思われてなさそうだ。
すると、幻太郎が横目でこちらを捉えながら、ちょいちょい、とこちらに向かって手招きをした。な、なんだろう。そそそ、とが幻太郎の真ん前までやってくると、なぜか彼の腕がにゅ、と伸びてきた。え、えっ? ぽかん、として彼を見上げていると、それはの頭上に影を作り、そして――
「あいたたたたぁっッ!?」
「弱そうなアンキロサウルスですねえ。草食動物とのハーフでしょうか」
「へっ? な、なんて? あんき? というか先生痛いですうッ! 指! 頭に指くい込んでますからあッ!」
「ラジオを聴いた後に自力で調べなさい」
の頭をがしッ、と鷲掴んだ幻太郎。ぱっ、と解放されても、じんじんとした感覚が頭部を支配していた。文系の彼でも、さすが男性の握力といったところだ。
「あんまりです……。あんまりです先生……。こんなので小説の資料になるんですかぁ……?」
「なるなる~。主にうちのストレス解消? 的な?」
「完璧にネタ枠じゃないですかあっ」
そんなJK風な口調にとほほ、とは肩を落とす。これで今日のお仕事も終わり――かと思いきや、不意に、かしゃっ、と軽快な機械音が聞こえた。へ? が再び幻太郎を見ると、彼はいつの間にか出した自前のスマホをこちらに向けていた。
「今撮りました!? 撮りましたよね!?」
「おいらのお腹の音さァ~」
「“かしゃっ”って聞こえましたけども!?」
「幻聴じゃないですか? そういえば、ここ最近クラップ音が鳴り止まないんですよねえ。深夜二時になると、誰もいないはずの台所の方から――」
「ひえぇッ……!? よりにもよって私の滞在時間が多い場所ッ……!」
「まあ嘘ですけど」
「この時期に怪談話はシャレになりませんよ~ッ!」
半ば泣きべそでは幻太郎に迫る。しかし、「アンキロサウルスが何か言っているでおじゃ~。麿は恐竜語は分からぬ~」と知らん顔だった。あばばばばっ。様々な感情がせめぎ合ったの胸の中はついにキャパオーバーを迎えた。
「も、もう着替えてもいいですかッ!」
「ええ、どうぞ。あ、さっき言った通り、その部屋着は差し上げますから。袋はうちにある適当なものを取っていってもらって構いません」
まるで用済み、といった風に、幻太郎はこちらを向きもしない。ずっとスマホの画面に夢中だ。心なしか表情が穏やかのような……気がしないこともない。何見てるんだろう。アニマル動画を見ている時の自分と同じ顔をしている。
はっ、とは我に返る。いつまでも恥ずかしめにあったこの格好のままでいるわけにはいかない。は部屋の敷居を跨ぎ、「失礼しましたっ!」と言いながら、ばたばたと別室に駆けていった。一方で、今日のマイバックにこのルームウェア入るかな、などと頭の中では考えている。幻太郎にいじられることが日常と化して、許容の感覚が麻痺していることなど、本人は知る由もなかった。
「……本当に、馬鹿な娘ですね」
静寂を取り戻した部屋にて一人。スマホに映った写真を見ながら、幻太郎はぽつりとそう呟く。撮りたてほやほやの、いじりがいのある顔をした家政婦を眺めているだけで、幻太郎の頬が無意識に緩んだ。……もちろん、滑稽な意味で、だ。
無意識に撮ってしまった、ルームウェアを着た家政婦――いや、家政婦に着せられたルームウェア。そう、これは、今後あの家政婦をいじるネタとして有効活用させてもらうためのもの。決して、「美味いものと美味いものを足したらすげえ美味いものになるんじゃねえ?」といういつぞやの帝統の言葉を鵜呑みにしたわけではない。「たしかに~っ! それじゃあ、このパスタの上に蜂蜜シロップを――」「やめなさい」と、悪乗りした乱数の言葉を制したのは記憶に新しい。彼がクローンと分かってからというものの、ただの変人ではなく、人間歴三年未満――今の乱数が生まれた時期は定かではないが、とりあえずそう見積ることにする――ぴっかぴかの小学生という目で彼を見るようになった。パスタに蜂蜜シロップをぶちまけようとした時も、特段乱数はふざけているわけではなく、純粋な興味でものを言って実行していることを考えると、それを制止する幻太郎の良心が痛むこともしばしばあった。
――話を戻す。結局、嘘の怪談に気を取られて写真の存在を退出した。絵に書いたような馬鹿だ。おまけに、叩けば叩くほど違う反応が返ってきて全く飽きが来ない。
ひとまず、これで次回作は締切前に完遂するだろう。幻太郎は清々しい顔をしながら天井を仰ぐ。がおー、と両手の爪を向けながら、満面の笑みでこちらに迫ってくる小さなアンキロサウルスを想像すると、堪えきれなかった笑みが幻太郎の口元でふ、と溢れた。
