初色を編む



「すみません」

 とある日の、買い出し帰りのことだ。
 スーパーで買い物を済ませた江麻は、観光客と地元客で賑わう商店街を歩いている。エコバッグを肩にかけ直して、今日のお夕飯は昨日仕込んだ唐揚げ、と上機嫌に思いながら、気分上々で帰路を辿っている。
 そんな時、冒頭のように声をかけられた。江麻は、呼びかけられたのが自分なのかも分からなかったが、その声が聞こえた途端、反射的にくるりと後ろを振り向いた。すると、先程の声の主らしき女性がじっとこちらを見つめている。どうやら、用件があったのは自分で正しかったようだ。
 夕方とはいえ、残暑が絶えない今日この頃。カンカン帽を被った女性は、お土産らしき紙袋をたくさん携えており、ナゴヤ観光に来たと思われる風貌だった。そして、唯一お土産を持っていない右手にはスマホを持っている。
 見た目からか雰囲気からか、江麻はそのポーズをした見知らぬ人に声をかけられることが多かった。中学生の頃はあたふたしたものの、この歳になるともう慣れたものだ。知らない土地で困っているであろう女性に対して、江麻はにこやかに応じる。

「はいっ」
「この唐揚げ屋さんはどこにありますか」

 唐揚げ屋さん。女性はその言葉とともに、自分のスマホを江麻に向かって掲げる。失礼します、と断ってから、江麻は女性のスマホの画面を覗き見た。マップの画面と一緒に表示されている店名。そこは、商店街内で数ある唐揚げ専門店の中でも人気を誇る店だった。

「ここの唐揚げ屋さんなら、もう一つあっち側の通りにありますよ~」

 あっち、と江麻が東を指差すと、「通り?」と女性が首を傾げた。

「オオス商店街は、通りがいくつも分かれてるんです。あっちにも、食べ物屋さんとか雑貨屋さんとかたくさんありますよ~」
「たくさん」

 ほう、と女性が感心したように息をつく。すると、彼女は江麻とスマホの画面を見比べた後、周りをきょろきょろと見渡した。「商店街は、ここの通りだけかと思った」そう言って、目に陰を落とした女性の表情は、どこか疲れを帯びているようにも取れた。
 ……もしかすると、長い時間ここ一帯をずっと歩いていたのかもしれない。江麻は唐揚げの店があるマップを再度見る。この道ならば、ちょうど帰り道にもなっているし、これ以上迷っていたら女性の体力と時間も消耗し切ってしまうだろう。そう思った江麻はおそるおそる口を開いた。「あのう、」

「おねえさんがよかったら、わたし、近くまで一緒に行きましょうか?」

 すると、女性の顔が微かに晴れたような気がした。「いいの?」と彼女の声の調子が僅かに上がる。そんな彼女の問いかけにも、江麻は快く頷いた。



 ――そして、先程いた地点から歩いて数分のところにある唐揚げ専門店。目的の店の前までやって来た二人は、その場に呆然と立ち尽くしていた。

「り、臨時休業……っ?」

 シャッターの貼り紙を見て、江麻は言葉を漏らした。店主の一身上の都合により――という短文が江麻の頭を真っ白にさせる。あまりの予想外なことにショックを隠せなかった。
 ちら……と、江麻はばつ悪そうに女性を見る。案の定、彼女も張り紙を見つめたまま動かない。石化、という言葉が江麻の脳裏を過ぎり、どことなくその表情も虚無で包まれているように見えた。

「お、おねえさん、別の唐揚げ屋さんに行きますか……?」
「ううん……大丈夫。他の唐揚げ屋さんは、全部網羅したから」
「えッ」 

 「あとはここだけだったの」女性は淡々と言って、ふう、と小さく息を漏らした。よりにもよって、地元でも一二を争う人気店の味を堪能できないとは。彼女の心情を察する他ない。
 それに、散々歩いてこの結末はないだろう。どうしよう、なにかできることないかな――そう考えているうちに、一縷の光が江麻の中を駆けた。未だぼんやりとしている女性に向かって、江麻は衝動のまま声を張る。「あっ、あのッ!」

「今日のうちのお夕飯、唐揚げなんですっ!」







 おじゃまします――女性の控えめな声が、静まった玄関によく通る。招いた側の江麻も少し緊張してしまって、玄関にある電気のスイッチを暗がりで探すのに時間がかかってしまった。

じゅんさん、帰りの新幹線とか大丈夫でしたか……?」
「うん。終電に近い時間に取ったから、平気」

 会って数分の他人様を半ば勢いで夕食に招待してしまった江麻。言った直後は後悔の念に駆られ、案の定、かなり驚いた様子の女性だったが、「……じゃあ、お言葉に甘えて」とこちらの身を立ててくれた。いい人だぁ、と江麻は感動する他ない。
 女性の名前は純というらしい。話を聞くと、つい先日テレビで唐揚げ特集が放送されていた時、ナゴヤにある唐揚げ専門店が紹介されていた。そうして調べてみたら、他にも唐揚げの店がナゴヤに多数あると聞き、こうしてシンジュクから遥々やって来たとのことだった。
 シンジュクかあ、大人のまちだなあ、とぼんやりとした感想を抱いた江麻。東都に住んでいたのは昔の話。都市の名前を聞いても、異国のような印象を受ける。今の江麻は、身も心もすっかりナゴヤに染まっていた。
 ともかく、江麻は純を一階の居間に通して、「荷物とか、適当に置いて大丈夫ですよー」と声をかけた。

「すぐに準備するので寛いでてくださいね。あっ、純さん、喉とか乾いてないですか? 何か飲みますか?」
「ううん、大丈夫。それより――」

 純は部屋の隅に荷物を置くと、そのまま江麻の隣に並んだ。「私も、夕食作るの手伝う」

「私、唐揚げ揚げるの得意だから、任せてほしい」

 自分が招いたお客様なのにそんな――と言おうとしたが、明らかに純の目がやる気に満ち溢れていたので、「では……お言葉に甘えて」と、江麻はほのかに笑った。


 二人で台所に移動して、江麻は棚から自分のものとは別のエプロンがないか探す。しかし、出てきたのは今は亡きカヨの割烹着だけだった。

「すみません純さん……。エプロンというか割烹着しかなくて――」
「割烹着」

 純は目を見開いて、江麻が持っていた割烹着をゆっくりと手に取る。「一度、着てみたかったの。割烹着」と言って、さっそく頭からすぽんと被った。
 き、着てくれたあ~……。嫌な顔をされたらどうしようかと思った。やっぱり純さんいい人だあ、と再度感動する江麻。とりあえず、どこの棚に何があるか純にレクチャーをした後、江麻もエプロンを身につけた。

「じゃあ、わたしは汁物とか付け合わせを作ってますね」
「うん」
「唐揚げは昨日のうちに漬け込んで冷蔵庫にあります。あと、中にあるものも自由に使って大丈夫なのでっ」

 「うん。わかった」江麻の言葉に、純はこくんと頷いた。誰かといっしょにご飯作るのなんて、ばあばのお手伝い以来だなあ――江麻はつい踊ってしまう心をそっと隠しながら、純とともに夕食作りを始めた。

 江麻はまず、本日買ったものを冷蔵庫に入れ、使う食材を外に出していく。キャベツ、カニカマ、小口ネギ、乾燥わかめ――一通り並べたところで、さっそく調理に取り掛かった。
 江麻が水を入れた鍋に火をかけていると、純は冷蔵庫から保存袋に入った鶏もも肉を取り出していた。そして、漬けたタレをたっぷりと吸ったもも肉に、片栗粉と薄力粉を混ぜたものに丁寧にまぶしていく。

「えまちゃん」
「はぁい」
「温度計、ある?」

 「温度計ですか?」江麻が復唱すると、純は一つ頷いた。江麻はいったん鍋に蓋をして、食器棚の引き出しの中を漁った。
 うちって、温度計あったかなぁ? 少なくとも、江麻は調理で温度計を使ったことがない。ばあばが使っとったかもしれん、と思って念入りに見てみると、黄色の細長い容器を見つけた。中を開けてみると、ぽんっ、という軽快な音ともに赤い水銀が覗いて、江麻はぱあっと顔を上げた。

「ありました~っ」
「ありがとう」

 よかったあ、と安堵しながら、江麻は温度計を純に渡す。すると、純は油の入った鍋に温度計を差して、じっと温度が上がるのを待った。江麻は乾燥わかめを水に戻しながら、そそ、と純に話しかける。

「唐揚げを揚げるときの油って、最適温があるんですか?」
「うん。だいたい一六五度前後。低温の方が焦げにくくて、じっくり揚げるから奥まで火が通る」

 へえぇっ、と江麻は感心する。これから唐揚げするときに覚えておこう、と思いながら。
 続いて純は、唐揚げの皮部分を広げながら、慎重に油の中に投入していく。じゅわあぁぁ、と控えめな油の音を聞きながら、江麻は純の手元をじっと見つめるばかりだ。すると、そんな視線を察したらしい純がこちらを一瞥して、小さく口を開いた。

「最初に皮側を外にして揚げるとカリカリになって、ももの部分は肉汁が多く出て柔らかくなるの」
「へえぇぇ~っ」

 今度は歓声が口から出てしまった。純は手際よく唐揚げをひっくり返していくと、綺麗な黄金色になった衣がお目見えする。台所に広がる香ばしい匂いに、江麻はさらにお腹が空いてきてしまった。
 人が作ると、どうしてこんなにも美味しそうに見えるんだろう……。江麻が油鍋から目が離せずにいると、純は網トレイの中にキッチンペーパーを敷いて、唐揚げを鍋から一つずつ掬っていった。
 もう掬うんだあ、と江麻が思った矢先、純が再度口を開く。

「少し早いくらいで一度鍋から掬って、三分くらい余熱で置くの。そうしたら強火にして二度揚げすると、全体的に香ばしくなる」
「二度揚げ……!」

 魅力的な響きだ。江麻は温度も時間も考えていなければ、一度だけしか揚げていない。これは、家庭で食べれるクオリティを超えているのでは。唐揚げの揚げ方一つで、まさかここまで研究をしているなんて。

「純さん、唐揚げお好きなんですねえ」

 にこにこしながら江麻は言う。すると、油から最後の一個の唐揚げを掬い上げた純がこちらを見て――

「……うん。大好き」

 あ……笑った
 不意のことだ。純の表情の変化に江麻はどきっとする。しかし、それも一瞬のことで、純はすっといつもの真顔に戻った。そして、「えまちゃん、お湯沸いてる」と言われ、江麻は慌てて調理を再開した。







 新鮮なキャベツの千切りとあっさりとした卵スープ、ほかほかの白飯に、本日のメインである鶏もも肉の唐揚げ――一人で食べても美味しいのはもちろん、誰かと一緒に食べるのならさらに美味しくなる献立だ。江麻は何年かぶりに誰かと囲む食卓に高揚を隠せなかった。
 そしてなにより――

「(おいしい~っ!)」

 唐揚げがこれ以上になく絶品だった。お店と同じ――いや、お店でもこんなにも美味しくできないのではないかとさえ思う。味付けはいつもとは少し変わったものにしたが、食べたことのある味だ。となると、美味しさの決め手は揚げ方にある。やり方一つでここまで変わるとは……唐揚げの奥が深さを江麻は痛感した。
 白米を運ぶ箸が止まらない。江麻が満面の笑みで咀嚼していると、「えまちゃん」と、正面に座っていた純に呼ばれた。

「唐揚げの味付け、何にしたの?」

 もぐもぐと口を動かしながら、江麻は純の言葉を反芻する。こくんっ、と飲み込んだ後、「お味噌です~」と答えた。

「おみそ」
「はい。自家製のお味噌なんですけど、そこに醤油としょうがとにんにくで味付けして、最後に溶き卵を揉み込んだんです」

 「自家製おみそ……溶き卵……」純はひとり呟きながら、唐揚げを口に運ぶ。すでに二杯目のご飯に取り掛かっている純も、この唐揚げをお気に召したようだった。

「ナゴヤの人はみんな、味噌は家で作るの?」
「みんなじゃないですよー。わたしのところは祖母が作ってて、何年か前にまねっこして作ってみたんです」

 遺品整理をした時に出てきたカヨのメモ帳。そこに書かれていたレシピを参考に、見よう見まねで作った。熟成させた味噌は程よい塩梅で発酵されており、味も申し分ない。味噌汁、串カツ、おでんなどなど――今もこうして唐揚げの隠し味として大変お世話になっている。
 純の言葉から、やっぱりナゴヤってお味噌の印象があるんかなぁ、と江麻は一考する。そんな地域文化に思いを馳せていた時、彼女はふと顔を上げた。

「もしよかったら、あとで味付けのレシピ書きましょうか? あと、お味噌の作り方も――」

 皆まで言うこともなかった。純がぱあっと目を明るくさせたものだから、江麻はそれ以上何も言わずに、代わりに笑顔で応じた。
 かわいい人だなあ~。江麻は純の反応ににこにことしながら、まだまだ山盛りに積まれている唐揚げを箸でひょいと取った。



 ご飯が止まらない、と思いながら箸を動かしていると、大皿にあった唐揚げはあっという間になくなってしまった。あとは、二人で他愛のない話をしながら後片付けをし、食休みついでに江麻が純に渡すレシピを書こうとしたところだ。
 ……ペンがない。あれー……? 適当な紙を片手に江麻が部屋中を探していると、「ボールペン、貸すよ」と状況を察した純が言った。

「すみません……。ありがとうございます」
「うん。すこし待ってて」

 江麻は、純がトートバッグの中を漁っているのをただ見守る。すると、どうやらボールペンが見当たらないらしい純があれ、と首を傾げて、今度はバッグの中から荷物を一つ一つ取り出していった。
 ハンカチ、ポーチ、ハンディファン――いかにも女性の持ち物の代表格として名高いものが出てくる中で、不意に、ごとッ、と重々しい音を立ててそれは置かれた。

「(……え?)」

 江麻はぱちぱちと瞬きをする。明らかに異彩を放っているその黒い物体。テレビのリモコンのようなそれを、江麻はまじまじと見つめていた。そして、「あ。あった」という純の声ともに、どうぞ、と彼女が差し出してきたボールペン。江麻は呆然としながらそれを受け取るが、正直今はそれどころではなかった。一方、純は涼しい顔で持ち物をバッグの中に戻している。

「じゅ、純さん、あの、さっきのって……?」
「さっき?」
「えぇっと……。黒いリモコン、みたいな……」

 純はしばらくの沈黙の後、再度バッグの中を漁り出す。「これ?」と取り出したのは、先程の黒いリモコンらしきもの。すらりとした純の手に持たれているが、あまりにも見た目がいかつい。とてもじゃないが、女性の持ち物にしては堅物が過ぎた。

「これは、リモコンじゃなくてスタンガン」
「すっ、すたんがん……ッ!?」
「うん。主人が、『ナゴヤにはすごく危険な人達がいるからせめてこれだけは持っていってくれ』って」

 「通販で、ぽちってしてくれた」ぽちっという気の抜ける擬音語に反して、持っているものはあまり可愛らしくないものだ。
 スタンガン――純のような女性が持つには違う意味で利用価値のあるものだが、どうしても見た目が彼女と不釣り合いだった。

「怪しい人が近づいてきたら、こう……ばちッと」

 瞬間、スタンガンの先端から青白い電流が散った。「ひゃあぁぁ……!」思わず江麻は目を覆う。ドラマで見た光景が今、目の前にある。まるで現実味を帯びない。そして、顔色一つ変えずにスタンガンを扱う純に対して畏怖せざるを得ない。

「あの……旦那さんが言ってた、危険なひとたちって……?」
「理不尽な理由で喧嘩を売るヤンキー君とか、よく分からない言葉を喋る二重人格者とか」

 江麻はかれこれ十年以上ナゴヤに住んでいるが、そんな人達のことは聞いたことがないし、会ったこともない。ナゴヤも様々な地区に分かれていて広いものだが、たまたま純の旦那の運が悪かったのだろうか。「だから、」

「えまちゃんが案内するって言ってくれて、びっくりした。シンジュクだとそういうの、あまりないから」

 スタンガンを仕舞いながら、純はぽつりと言った。治安の善し悪しは分からないが、それでも、江麻の知るナゴヤはとても穏やかだ。食べ物は美味しいし、都市に行かなくとも大概のものは手に入る……そういう場所なのだ。
 江麻は、ぜひともナゴヤのいいところをたくさん知ってほしいと思った。悪い印象しかないのなら尚更だ。

「旦那さんにも、ナゴヤいいところだったよって、言っていただけたらうれしいです」

 江麻が笑むと、純も頷きながら口角を上げた。

「今度は、主人と一緒にナゴヤに来るね」
「そういえば、今日旦那さんは……?」
「元々一緒に行く予定だったんだけど、前々日に会社から呼び出しがあって」

 「今はきっと、エナドリ片手にお仕事頑張ってる」それは、かなり間の悪いことだ。しかし、純はまるで日常茶飯事のようにさらりと言うので、「旦那さん、すごくお忙しい方なんですねぇ……」と江麻は苦笑混じりに言うしかなかった。







「唐揚げ、おすそ分けしてくれてありがとう」
「全然ですよ~。わたしも、唐揚げの揚げ方教えてくれてありがとうございました。純さんと一緒にお夕飯食べられて嬉しかったです」

 「私も嬉しい」江麻の言葉に、純も呟くように応えた。
 積もる話をしていたら、いつの間にか夜が更けていた。ここから駅まで徒歩十分圏内だが、こんな夜道を純一人歩かせるのは少々心配だった。
 江麻も、タクシーを呼ぼうかと最初に提案したが、「平気。いざとなればこれもあるから」と言って、純はトートバッグの中からスタンガンをちらつかせた。ここまで説得力のある言葉もなく、江麻は引き下がるを得なかった。
 「新幹線に乗ったら連絡くださいねっ」「うん。わかった」万が一の時のために、連絡先も交換した。何かあっては純の旦那に申し訳が立たないからだ。
 ――さて、そろそろ別れの頃合だ、と思った時。「えまちゃん」と純が唐突に江麻の名前を呼んだ。

「はいっ」
「えま、ちゃん」

 えまちゃん、えまちゃん
 なんだろう。呼ばれているというより、一音一音噛みしめているような言い方に、江麻がは首を傾げる。すると、ふむ、と急に押し黙った純は、江麻の目をじっと見据えた。

「……“えまちゃん”って、音がかわいい」
「え……?」
「だから、最後にたくさん呼びたかっただけ」

 じゃあ、またね。えまちゃん
 純は目を細めて笑んで、ひらりと手を振り、踵を返した。ぽかん、とした江麻だけがその場に残されて、純の背中が見えなくなった後、ようやく江麻は我に返った。
 ――途端に、両頬にじわあっとした熱が籠る。ううぅぅ、と江麻は小さく唸りながらその場にしゃがみこんで、熱くなりすぎた顔を両手で覆った。

「(わたし、昔から人のギャップによわいんだなぁ~……ッ)」

 改めて自分の趣向を再認識した江麻。しかし、それを抜きにしても、とても素敵な女性だった。見た目クールな印象を受けるが、意外にも茶目っ気があり、笑った顔はいい意味で子どもっぽい。総合的な雰囲気というのか、江麻も尊敬したいくらい“おとなの女性”という感じの人だった。
 純さん、また会いたいなあ。そう思いながら、江麻はぱたぱたと熱を帯びた顔を仰いで、家の中に入っていった。最後に見せてくれた、彼女の屈託の無い笑顔を思い出しながら。